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滝、右手と左手、ケニアン・ティー


旅人が、滝を訪れようと、その駅を降りたのは、今年の夏のことだった。駅前に人は誰も居らず、陽は頭上にあり、蝉が鳴き続けていた。
彼は、駅前の木工場にいた、いすをつくっているおじさんに、滝までの道のりを訪ねた。おじさんは、英語はまるでわからなかったが、工場に招き入れ、アイス・コーヒーをいれてやった。わずかな英単語と日本語をやりとりしているうちに、旅人は、ずいぶんほっとした気分になった。そしておじさんはようやく、旅人が、滝にいきたがっていることを理解しておどろいた。
滝までは、駅から歩いて3時間はかかる。バスもタクシーもいないし、案内板だって、駅と、滝の手前に、古い色あせた看板があるだけだ。そのあたりには、滝以外に観るべき場所もとくにない。だから、旅行者がその駅に降り立つことはまずないし、まして外国人が一人でふらふらと歩いていることなど、皆無に等しい。
おじさんは、旅人と心は通じていたけれど、言葉はそうではなかったので、私の家に電話をかけた。母がでた。おじさんは、受話器を旅人に渡した。母は、旅人と少し英語で話をして、彼は滝にいきたいと思っているけれど、足を痛めているし、道がわからないので困っている、ということを知った。

彼女は、そのとき少し時間があったので、おじさんの家まで運転していき、旅人を車に乗せて、滝へ連れて行ってやった。そして、帰りの電車に間に合うように、駅まで送っていった。

壮大な滝の音をききながら、
旅人は、自分はロンドンからきて、日本のあちこちを旅しているのだといった。
母はおどろいて、うちの娘がロンドンにいるんですよ、といった。そして、私の電話番号を書いて渡した。
早瀬に細かい水しぶきの虹がかかっていた。




「ほんとに、めずらしいひともいるのねえ」と母は電話口でわらって言った。インドっぽい顔の人だった、とても感じがよかった、とも。私は、ひとの電話番号を見知らぬ人に教えないでよ、と思ったけれど、だまっていた。

旅人から電話がかかってきて、私の実家にお礼をしたいという。少し警戒したが、彼が、日本の住所は、あなたのお母さんに書いてもらったから知っている、これであっているか確認してほしい、というので、母はうちの住所まで教えたのか、と驚きあきれながらも、郵便番号を付け足して旅人のe-mailに送った。

しばらくして、とてもごうかなチョコレートが3箱も実家に届いたと、母からはしゃいだ声で電話があった。
「あまいけどすっごくおいしい」
と妹。
「ずいぶん高そうなチョコレートだぞ」
と父。
父は、その後、旅人の家にお礼の電話をかけ、旅人のお母さんと少し話をしたそうだ。
「ごていねいに、すてきなものをいただきまして」

私はといえば、一瞬、チョコレートにあぶないものが入ってないだろうかと思ってしまい、自分の心のささくれをみたような気がした。




旅人が、「親切なご婦人」(母のことだろう、たぶん)のお嬢さんを、ディナーに招待したい、と電話をくれた。私は、会ったこともない男性の家に招かれて、たいへんに警戒心を覚えたが、旅人からチョコレートが届いたときの母のうれしそうな声を思い出して、断れなかった。

なにか手みやげを、と思って、いろいろ考えたのち、小さな紫色の花が縦に三つ並んで咲いている、美しい鉢植えをひとつ買った。旅人の家族へ、というつもりだった。

私は、指定された駅に着いて、初めてその「旅人」と会って、とても感じのいいおじさんだとわかって、やや安心した。それでもまだ、おじさんの車に乗ってからは、どこかあぶないところに連れて行かれるのではないか、とびくびくしていた。もう、この国に来てそういう体質になってしまっているのだろう。悲しいことだ。でも、ひとりぼっちでイギリスに来た私には、必要なことだったのだ。

旅人おじさんはケニアで産まれ、しばらくそこで育ったが、彼の家族はもともとインドからの移民であり、親戚の多くはインドにいるという。インド人と言っても、仏教ではなく、ヒンディー語も話さない。宗教的な戒律から、一家は完全なヴェジタリアンである。たまごも食べない。海のものも、海藻以外は食べない。

彼の家に着くと、あかるい水色のサリーにカーディガンを羽織ったとても小柄なおばあさんが出迎えてくれた。ちいさすぎて視界に入らなかったので、両腕を差し出した格好でいきなりあらわれて、びっくりした。

旅人のお母さんのごはんは、どれもとてもおいしかった。野菜のカレーやレンティルのスープ、うすいパンケーキのようなの(名前がどうしても思い出せない)、ライスにはカレーをかけて、手作りのヨーグルトをまぜて食べた。ライス以外は、スプーンを使わずに、右手で食べた。私は左利きだから、どうしても左が先に動いてしまう。だから、左手を背中にくっつけて、右手でぜんぶ食べた。それをみて、旅人とそのお母さんが笑った。旅人は、東京で、電車の中に財布を忘れてしまったときに、人々にどれほど助けられてそれを取り戻すことができたか、とか、長野で足が痛かったときに、薬局の人が、英語がわからないのに、とても心配して塗り薬をいろいろだしてくれた、とか、ヴェジタリアンなので食事にはたいへん困ったが、日光で入ってみたピッツァ・レストランで働いていた少年が、野菜のピッツァと一緒に、大盛りのサラダを出してくれた、とか、ほんとうにたくさんの話をしてくれた。どこの景色、観光名所の話も、そこで彼が出会った人の様子を通して語られた。

食後に、旅人がお茶を入れてくれた。彼らは20年前にイギリスに来る前にはケニアにいたので(どちらも英国に深く関わりのある国だ)いつも飲むお茶は、インド式ではなく、ケニアン・ティーだという。紅茶葉をお湯で煮だし、そこにミルクを加えてひと煮立ちさせ、マサラという、シナモンやナツメグの入ったスパイスを加えたものだった。それに砂糖も少し入れる。熱い。葉っぱの味がする。まんぷくのおなかに沁みる。私のめがねが湯気ですこしくもって、ほっとした。

ほんとうにみごとな滝だったよ、あそこには、また行きたいと思う。
と旅人は言った。








(フィクションであり、ノンフィクションでもあります)

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小便小僧のこと

数日間ベルギーへ行っていた。

旅にでようと決めた日にユーロスターのチケットだけとって、あとはなーんにも予約せずに、バックパックひとつで、ひとりで、ふらりといってきた。

今回の目的は、ベルギー・ビールと、楽器博物館。それさえ外さなければ、あとは、現地で考える、行動する。

ベルギーの首都ブリュッセルで、私は、昼と夜のごはんのたびにビールをぐびぐび飲み、「小便小僧」(彼は町の広場から数分歩いたところに居る)の栓抜きを買って、泊まった部屋でも、日記を書き、地図を眺めながらビールを飲んだ。

そう、その小便小僧のはなし。

マネケン・ピス 2





お土産屋さんには、小便小僧の左手先、つまり水?が出てくる部分がコルクスクリューになっているものが並べて売られていた。あたまに栓抜き、股間にスクリューというのもあった。私は、それをみて、なぜかかなしくなった。


小便小僧は、衣装持ちであり、世界中から彼に送られた衣装は、なんと800着に及ぶという。それらのいくらかは、レプリカの小便小僧が装着していて、ほかの衣装とともに王立博物館に展示されている。
本物の小便小僧をみてから、博物館へ行ってみた。
きらめく衣装のなかでも、日本から送られた鎧兜のものは圧巻だった。

小便小僧は、金のかぶととよろいをつけていた。そして、左手と股間の辺りがすっぽりと切り取られていた。「Daimyo」と書いてあった。
博物館での写真撮影は、残念ながら禁止されていたのだけれど、日本から送られた衣装の、他のひとつがポストカードになっていた。

マネケン・ピス




小便小僧には彼女も居る。ひっそりとした場所で、音も立てずに、小便少女は(和式、あるいはおまるのスタイルで)ただ、居る。彼女の衣服のことは、私のみたもののどこにも書かれていなかった。
かわいそうに。


ところで、私は、小便小僧の像の前で、小僧のポーズをまねて写真をとるべきか数秒間真剣に迷った。いいポーズなんだもの。すごく、クール。
連れ合いが居たら、その人にやらされたとか言い訳できるのに、となかば悔しく、なかば安心しながら、小便小僧を背に、ふつうににっこりわらって、写真を撮ってもらった。



楽器博物館は、たいへんおもしろく、数時間を費やして全館じっくりと堪能してきた。私は、「耳をすませば」もすきなのだ。

せいじくん!!
しずく!!


このようにして、旅の目的は達せられた。あとは、ひとりで孤独で気楽で無計画だと、どうでもいいことばかり考える、ということが(また)よくわかった。

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とびらをあけて

イギリスでは、学生が「フラットシェア」というかたちで、一世帯用のアパートに共同生活することが多いです。うちだと、それぞれ間取りも大きさも違う(もともと家族用だし)個室が4つあって、それぞれポーランド人、ハンガリー人、オーストラリア人、日本人(私)が一人で使っているのだけど、キッチンとおふろとトイレと、共用スペース(居間みたいなとこ)は共有しています。みんなかんじいいし、お互いあまり干渉しないけど仲はいいし、わりときれいにしているし、うるさくもないし、バス停も近いし、治安もいいし、各部屋でインターネットもつかえるので、快適にくらしています。










洗濯機をのぞいて。





またか、と思われる方もいるかもしれません。
今日はなにかというと、

洗濯機のドアが開かなくなりました





甚大なる苦痛と電話の応酬の末に、モーターを取り替えてからは、ときにぬるい脱水などしてみせながらも、まあまあ快適に動いているかにみえた洗濯機。

でも今日は、ちゃんと洗濯も乾燥もしてくれたのに、
ドアを開けてくれませんでした(涙)

あけて! って押したり引いたりしてみたけど、
ぴくりともうごいてくれません。

おねがい、って、やさしくはなしかけてもみたし、
どんどん! ってたたいてもみたんです。

反応なし。





......私はなにも洗濯機をなにかの比喩として、たとえば恋人の心を洗濯機のとびらにたとえてですね、「あなたにもっと、心を開いてほしい」とかってここに書いているんじゃないんです。
ほんとに洗濯機が......

くつしたの片方くらい、あげるから、
扉をあけて、洗濯機。


(ひまな方は、このブログの、「せーんたく奇・せんたく危」を参照してください)

まくまくまっく

私のかわいがっているマックのハードディスクがおかしい。

かたっかたっ......きゅるるるる.........かたたたたた...かた......

とかいって、

うごきがおそくなっちゃう...
しばらくかたまっちゃう...
そしてとまっちゃう...


先日、パソコンから、きいたことないへんな音がしたので、なにごとかと青くなり、それからいそいで、リージェント・ストリート(この通りの、「逆さ”へ”の字」のように曲がりくねったようすから、「リーゼント」の語源であると聞いたことがあるが真偽は不明)にあるアップル・ストアまで、外付けハードディスクを買いに走って、苦戦ののちなんとかフルバックアップをとった。やりかたとかは、ぜんぶもぐらがおしえてくれた。

爆発の可能性があるというソニー製バッテリを、リコールして、交換した数日後のできごとだった。



......というわけで、
バックアップがとれていなかったら......
と思うと、思い出してもおそろしいです!
ちょっとずつでも自分の使ってるパソコンの知識をつけなくちゃ、とおもいました。


で、マック関連のウェブサイトをいろいろ検索したのはいいけど、マックの創業者、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーション映像やら彼の語録やらをみつけてしまい、たいへん感心して、おもしろがって、満足して、おなかすいて、ついにはキッチンでびあ飲みながらごはんつくったりなんかして(笑)

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二年ぶりの

以前おかしな詩を載せてからひと月がたってしまいました。
論文が思うようにすすまず、つくえに向かってうなっています。


ところで今日は、カップめんを食べました。
2年以上ぶりだと思います。

お昼間にちょっと日本の食材屋さんにお買いものにいったのですが、そのとき目についたのが、カップめんの山でした。

みたことないのがいっぱい!!


で、カップうどんをひとつ買ってみました。
なまえわすれちゃった。赤いふたでした。どこにでも売ってそうな乾燥めんのうどん。
1.98ポンド(1ポンド220円として、435.6円...... 435.6円!?


いま、書いててめまいしました
(イギリスは物価が高いですし、また、ポンド高も続いています...)



私はいつもごはんは、かんたんにてきとうに作って食べるのですが、いくらなんでも、お湯を入れるだけ! ということはないので、正直これでいいんだよね? ってちょっと戸惑いました。
でも、おいしいような気がしました。
きっと日本では、進化したすごくおいしいカップめんが、すごく安くたくさんでているんだろうなあ...



余談ですけど、ちょっと前に、イギリスの新聞で、「夢のトイレ体験」とかいって、TOTOのウォシュレットを紹介していました(笑)
あたたかい便座なんて、超ごーじゃすなんですね、きっと。便座カバーもまるで一般的じゃないもの。ウォシュレットのトイレがある日本食レストランに、トイレを体験しにくるお客さんまでいるそうです(笑)

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supikametti

Author:supikametti
上の写真はトルコの日食:

トイレットペーパの芯から世界をのぞいてみるのも、たのしいものです。


キーワード:めがね、楽器と各パーツ、わたがし、クラシック/現代音楽、クルテク、なまケモノ料理、子ども学、社会学、ビール、ロンドン、緑茶、デジカメあそび、トイレットペーパの芯あつめなど。

 

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